いい けしき
まど・みちお少年詩集(理論社)より
水が よこたわっている
水平に
木が 立っている
垂直に
山が 坐っている
じつに水平に
じつに垂直に
この平安をふるさとにしているのだ
ぼくたち
ありとあらゆる生き物が…
いっしょけんめい
新川 和江
いっしょけんめい 泳いだら
いつか 魚に なれますか
尾ひれが生えて すいすいと
沖まで泳いで ゆけますか
いっしょけんめい はばたいたら
いつか 小鳥に なれますか
つばさが生えて ゆうゆうと
広いお空が とべますか
いっしょけんめい 背のびをしたら
いつか ポプラに なれますか
みどりの葉っぱを そよがせて
風とおはなし できますか
い る か
谷川 俊太郎
いるかいるか
いるかいないか
いないかいるか
いないかいるか
いないいないいるか
いるいるいるか
いつならいるか
いっぱいいるか
よるならいるか
ねているいるか
またきてみるか
ゆめみているか
かぼちゃのつるが
原田 直友
かぼちゃのつるが
はい上がり
はい上がり
葉をひろげ
葉をひろげ
はい上がり
葉をひろげ
細い先は
竹をしっかりにぎって
屋根の上に
はい上がり
短くなった竹の上に
はい上がり
小さなその先たんは
いっせいに
赤子のような手を開いて
ああ 今
空をつかもうとしている
きりん まど・みちお
きりん、
きりん、
だれがつけたの?
すずがなるような、
ほしがふるような、
日曜の朝があけたような名まえを。
ふるさとの草原をかけたとき、
一気に百キロかけたとき、
一ぞくみんなでかけたとき、
くびのたてがみが鳴ったの?
もえる風に鳴りひびいたの?
きりん、
きりん、
きりりりん。
てんぷら ぴりぴり
まど・みちお
ほら おかあさんが ことしも また
てんぷら ぴりぴり あげだした
みんなが まってた シソの実の
てんぷら ぴりぴり あげだした
ツクツクホウシが けさ ないたら
もう すぐ ぴりぴり あげだした
子どもの ときに おばあさんから
ならった とおりに あげだした
秋の においの シソの実の
小さな かわいい つぶつぶの
てんぷら ぴりぴり あげだした
ぼくは いくんです
柴野 民三
ぼくは ずんずん いくんです
みちを まっすぐ どこまでも
みちが 三つに わかれたら
すきな 一つを すすみます
みちが なくなれば くさをわけて
がけに あたれば よじのぼり
雨が ふったら マントきて
マントが なければ 雨にぬれ
くつが やぶれたら はきかえて
かわりが なければ はだしでも
おなかが すいたら パン たべて
なんにも なければ がまんして
あらしが あったら ひなんして
くまに あったら うちとって
うつくしい 山 あおい 山
その てっぺんまで いくんです
はとを とばせに いくんです。
よかったなあ
まど みちお「いいけしき」より
よかったなあ 草や木が
ぼくらの まわりに いてくれて
目のさめる みどりの葉っぱ
美しいものの代表 花
かぐわしい実
よかったなあ 草や木が
何おく 何ちょう
もっと数かぎりなく いてくれて
どの ひとつひとつも
みんな めいめいに違っていてくれて
よかったなあ 草や木が
どんなところにも いてくれて
鳥や けものや 虫や 人
何が訪ねるのをでも
そこに動かないで 待っていてくれて
ああ よかったなあ 草や木がいつも
雨に洗われ
風にみがかれ
太陽にかがやいて きらきらと
わたしと小鳥とすずと 金子みすゞ
わたしが両手をひろげても
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地べたをはやくは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのように
たくさんなうたは知らないよ。
すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがって、みんないい。
宇宙旅行 竹中 郁
月へ旅行できるという
ひょつとしたら火星へでもという
ロケットにのって
旅行できるという
ぼくは一番にもうしこもう
お金はいくらかかるかな
ぼつぼつ お金をためとこう
お父さんやお母さんは
行けるかなぁと いぶかるけれど
ぼくは きっと行けるという
その気になれば行けるのだ
月へいったら
からだがかるくなるという
たべものは地球からもってゆく
うちの庭のさざんかを一本
月の地めんにうえてみるんだ
地球へかえってから
それを大望遠鏡でさがしあてるんだ
山が近い日
間所 ひさこ
夕ぐれがやさしい日には
山が近くなる。
すみれいろのせなかをみせて
近くなる。
なわとびやめて
かえろう。
おかあさんが
さやえんどうを煮ているよ。
すみれいろの山のへりから
夕陽があいさつを送ってくる。
きょうのおわりの
やわらかな雲をとばしてくる。
水泳ぎ
草野 心平「げんげと蛙」より
背泳ぎしながら
あつい光をうけながら
入道雲をながめるのは
気持ちがいいな
もくもく もくもく
青天井のまんなかに
つぎから つぎと
もりあがって
光とかげのゆらゆらする
青い 真っ青い水にうかんで
入道雲をながめるのは
気持ちがいいな
まっ白い
二つの雲がかたまって
二つの雲がいっしょになって
もくもく もくもく
大きくなって
背泳ぎしながら
くじらのように
水をふきあげるのは
気持ちがいいな